花屋で伝えることは「誰に・どんな場面で・どう持ち帰るか」の3つで足ります。花の名前を覚える必要はありません。そして、予算から先に言わないほうがいい。金額だけ伝えると、金額なりのものが出てきます。
なぜ花屋で言葉に詰まるのか?
これまで100軒以上の花屋を回り、100回以上花を買ってきました。今でこそ迷わず注文できますが、最初は花屋に入って30分なにも買えずに出てきたことがあります。店員さんに「何かお探しですか」と声をかけられて、答えられなかった。
そのときは「花の名前を知らないからだ」と思っていました。でも違いました。
詰まる理由は、「何かお探しですか」に対して、商品名で答えようとしてしまうことです。服屋なら「シャツを」と言えます。花屋では言えない。名前を知らないから。
でも花屋が知りたいのは商品名ではありません。用途です。用途が分かれば、花を選ぶのは向こうの仕事になります。覚えるべきは花の名前ではなく、伝える順番のほうです。
そもそも「プレゼント選びのセンスがない」と感じている人ほど、この構造にはまりやすいです。センスの問題ではなく、伝える基準を持っていないだけという話はプレゼント選びにセンスがないと思う人へで詳しく書きました。
伝えるべき3つは何か?
① 誰に贈るのか
「30代の女性に」「職場の上司に」「母に」。これだけで、花屋が選ぶ範囲は一気に絞られます。年齢と関係性が分かると、色の方向とボリュームが決まるからです。
相手の好みが分かるなら、そこまで言えると精度が上がります。「派手なものが苦手そう」くらいで十分です。そのまま口に出すなら、こうなります。
「職場の50代の男性に贈ります。あまり派手なものは好みではなさそうです」
② どんな場面か
誕生日、退職、お見舞い、記念日、なんでもない日。場面によって避けるべき花が変わります。たとえばお見舞いに鉢植えを持っていくのは避けられることが多い。「根付く=寝付く」と結びつけられるためです。
こういうタブーを客側が全部覚えるのは無理です。場面を言えば、花屋が避けてくれます。
「送別会で、みんなの前で渡します」/「入院しているので、病室に持っていきます」
「みんなの前で渡す」まで言うと、正面から見たときに映える形にしてもらえます。正面のある作りにするかどうかで束ね方が変わるからです。
③ どうやって持ち帰るか
これが一番見落とされます。そして一番実害が出ます。
「電車で1時間かけて持っていく」のと「車で30分」と「この場で渡す」では、作り方が変わります。移動が長いなら、丈を短くしたり、給水を厚めにしたり、横に倒せる包み方にしてもらえます。
大きい花束は店頭では見栄えがしますが、満員電車では持てません。渡す前に潰れます。夏場に電車で1時間運んだ花束が、着いた時点でしおれていたことがあります。あれは伝えなかったこちらの落ち度でした。
「電車で1時間ほど持ち歩きます。渡すのは夕方です」
付け加えると、持ち帰りやすさは渡すときの気恥ずかしさにも直結します。大きな花束を抱えて電車に乗れば視線が集まりますが、片手で持てるサイズなら誰も気に留めません。渡すこと自体に気後れがあるなら、まずサイズを下げてみてください。それだけで解決する場合がほとんどです。
店員は本当は何を知りたいのか?
3つを伝えたあと、店頭で追加で聞かれる内容は、何度注文してもほぼこの範囲に収まりました。先に答えを用意しておけば、会話で詰まる場面がなくなります。
- いつ渡すか:渡す日が先なら、つぼみの多い状態で組んでもらえます
- 持ち帰りか、配送か:配送なら住所と希望日、持ち帰りなら移動時間
- 花束か、アレンジメントか:迷ったら「相手が花瓶を持っているか分からない」と言えば、向こうが判断してくれます
- ラッピングの色:「明るめ」「落ち着いた感じ」で通じます
- メッセージカードの要否:無料で付く店が多い。文面は「ありがとうございました」だけで成立します
「花瓶を持っているか分からない」は、何度も使ってきた言い方です。給水材ごと包んでもらえたり、そのまま置けるアレンジメントを勧められたりします。分からないことは、分からないと言ったほうが早い。
予算はいつ言えばいいのか?
先に言わないほうがいいです。3つを伝えてから、聞かれたときに答える。
理由は単純で、金額だけを先に言うと、金額なりのものが出てくるからです。「5,000円で」とだけ言えば、5,000円ぶんの花が束ねられます。用途を先に伝えれば、同じ5,000円でも中身が変わります。
目安として、3,000〜5,000円で花7〜10本、片手で持てるサイズが一般的な水準です。5,000円を超えると花材の選択肢が増え、ユリなど1本が大きく高い花も入れられるようになります。
「5,000円くらいで、良いものがあれば少し上でも」と幅で言えば、その日いちばん状態のいい花を軸に組んでもらえます。
この価格の中身がどうなっているかは、花束の原価を調べた記事にまとめています。
逆に、言わなくていいことは?
- 花の名前:知らなくて当然です。プロが選びます
- 細かい色の指定:「白×グリーンで落ち着いた感じ」程度で十分。ピンポイントに指定すると、その日入荷していない花を指定してしまうことがあります
- 花言葉:気にする人は少数派です。まず色と雰囲気で選んだほうが外しません
ただし「おまかせで」だけを言うのは避けてください。情報がゼロなので、花屋も無難なものを作るしかなくなります。無難な花束は、誰の記憶にも残りません。
花の名前も同じです。「バラで」と種類を指定すると、その日の入荷次第で割高になったり、鮮度の落ちたものになったりします。種類より、色や雰囲気を伝えるほうが、同じ予算でいいものが出てきます。「白っぽく」「落ち着いた感じで」で十分伝わります。
贈る理由を長く説明する必要もありません。関係性の経緯やお礼の内容までは要らない。花屋が使えるのは「誰に・いつ・どこで渡すか」だけで、それ以外は花の選択を変えないからです。
用途別に、どの一言を足せばいいか?
3つを言ったうえで、場面ごとに一言だけ足すと精度が変わります。
退職・送別なら「その場で渡します」
加えて「本人がこのあと電車で帰ります」と言えるとなお良い。ここを言わず大きい束を頼むと、相手に荷物を渡すことになります。色や花材の選び方は上司の退職祝いに贈る花で整理しました。
お見舞いなら「病室に持っていきます」
この一言で、鉢植え・香りの強い花・花粉の多い花が外れます。病院によっては生花の持ち込み自体が禁止なので、そこは事前確認が要ります。避けるべき花と代わりの選択肢はお見舞いの花のタブーにまとめています。
結婚祝いなら「新居に飾ってもらいます」
飾る場所が自宅だと伝わり、花束ではなくそのまま置けるアレンジメントを勧められます。結婚祝いに花を贈るときのマナーも合わせて確認してください。
ネット注文だと伝え方はどう変わるか?
変わるのは「聞き返してもらえない」一点です。店頭なら足りない情報は向こうが聞いてくれますが、ネットでは備考欄に書いたことがすべてになります。
だからネットのほうが、書く情報は多くなります。店頭で言う3つに加えて、受け取る人が在宅かどうか、何時ごろに届いてほしいかまで書いておく。ここが抜けると不在で持ち戻りになり、花の状態が落ちます。実際に一度やりました。備考欄には、この形で足ります。
「職場の30代女性への退職祝いです。落ち着いた色でお願いします。当日は本人が電車で持ち帰るため、大きすぎないサイズが希望です」
もうひとつ、ネットは写真どおりには届きません。掲載写真は撮影日の花材で、季節が変われば中身も変わります。同じ色味・同じ雰囲気で作られる、という理解が正しい。
そのまま使える一言はどう組み立てるか?
「30代の女性に、退職のお祝いで渡したいです。電車で持ち帰るので、あまり大きくないほうが助かります。派手すぎないものがいいのですが、いくらくらいからありますか?」
これで3つ全部入っています。あとは向こうが提案してくれます。
順番は「誰に→場面→持ち帰り→予算を聞き返す」。最後を質問で終えると、金額を自分から決めずに済みます。覚えるのは3つの順番だけで、文章そのものは暗記しなくていいです。
よくある質問
予算が3,000円だと少なすぎますか?
少なくありません。3,000円で7本前後、片手で持てるサイズになります。相手が持ち帰ることを考えると、むしろこのくらいが扱いやすい場面も多いです。
当日に行っても作ってもらえますか?
店頭にある花で作る場合は、その場で対応してもらえることが多いです。ただし本数が多い場合や、特定の花を使いたい場合は取り寄せになるので、数日前に相談したほうが確実です。
相手の好みが全く分からないときは?
好みではなく「相手の部屋や職場に馴染むか」で考えると外しにくくなります。自分の趣味で選ぶより、置かれる場所を想像したほうが当たります。
結婚祝いのように場面ごとのマナーが気になる場合は、結婚祝いに花を贈るときのマナーにまとめています。
この記事は、100軒以上の花屋を回り、100回以上花を買ってきた買い手の立場から書いています。僕は花屋でもフローリストでもありません。売る側ではなく、買う側として詰まってきた経験がもとになっています。
